福岡高等裁判所宮崎支部 昭和25年(う)212号 判決 1950年8月18日
被告人
佐藤正雄
外二名
主文
原判決を破棄する。
被告人佐藤正雄及び同前田勇雄を各懲役八月に、同西谷一郎を懲役四月に処する。
本裁判確定の日から、被告人佐藤正雄及び同前田勇雄に対しては各三年間、同西谷一郎に対しては二年間右刑の執行を猶予する。
押収に係る自動車タイヤー及び同チユーブ各一本、黒糖約一八〇斤は、いずれもこれを没収する。
理由
弁護人德田禎重の控訴趣意第二点について。
関税法第八三条第一項は、刑法第一九条と違つて犯人の所有に係る物ばかりではなく、その占有にかかる物をも没収すると規定しているのである。そして右占有の意義は必ずしも所論のような民法上の占有権と同意義に解しなくてはならないいわれはないのであるが、一面又単に所持すなわち事実上支配できる状態にあることを指すものと解するのは広きに失するものであつて、殊に所有者の意思に基ずかないで所有者の不知の間に占有するような場合は、その占有者において関税法違反行為をすることは所有者において全く予測できないところであるから、このような場合になお且没収を科するのは、所有者に対して苛醋に過ぎ当を得ないものといわねばならない。従つて、右のような場合は前記関税法第八三条第一項の占有に該当しないものと解するのが相当である。今本件についてこの点を調べて見るに、当審証人川越徳松及び同山口力の各供述を綜合すると、被告人等が本件密輸入に使用した原判示船舶さかえ丸は元来川越徳松の所有であつて、同人はこれを鹿児島港の船だまりに繋留し、自分は別府市に居住している関係から、鹿児島市在住の山口力に船番を頼み、船のあかを出したり、嵐のときの措置をさせたり、盜難予防のための見廻りをさせたりしていたところ、山口はそれを幸いとして、本件各被告人と共謀して、船主の川越には無断で同人の不知の間に同船を占有して原判示犯行の用に供したものであつて、被告人等の占有は全く所有者の意思に基ずかないことを窺うことができる。そうだとすると、被告人等及び山口力の本件船舶に対する占有は、前に説示したところによつて関税法第八三条第一項に該当しないものであるから、同条項を適用して被告人等に対し、同船舶の没収の言渡をした原判決は、法律の解釈を誤つて、不当に法律を適用した違法があり、しかも、その違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決はこの点においても破棄さるべきものである。